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LOOKSTAND_CROSS TALK vol.3-2

「Nigrec Co.,ltd」代表兼アートディレクターのNescoさんに聞いた
アートディレクターが思う制作の複雑化

LOOKSTAND_CROSS TALK vol.3-2(「Nigrec Co.,ltd」代表兼アートディレクターのNescoさんに聞いた<br>アートディレクターが思う制作の複雑化)

本媒体「le LOOK STAND」の編集長、佐藤リッキーがゲストを訪ね、 “LOOK BOOK”の可能性を探っていく連載の第3回。お話をお伺いしているのは『Nigrec Co.,ltd』代表兼アートディレクターのNesco(ネスコ)さん。その後半では、LOOK BOOKの役割の変化と、制作の難しさについて、さらに掘り下げたお話を伺いました。

―LOOKBOOKのアーカイブを見る。(2)「CLIENT WORK」
リッキー:ご自身がオーナーである「モーテル」では自己発信型のLOOKBOOKを制作されていたNescoさんが、現在のように外部から依頼を受けて、クライアントワークとしてLOOKBOOKを制作されるようになったのはいつからなんですか?

Nesco:2006年頃ですね。自分のブランドのLOOKBOOKを楽しみにしてくださる方が増えてきて、そのクオリティを評価してくださっていたんです。そうしたらある日、ナノ・ユニバースさんからご連絡をいただき、カタログを製作してほしいと。ただそれはクライアントワークだったにせよ、クリエイティブの自由度は高かったと感じています。

あえて淡白にいうと、依頼された制作物はクライアントさんが満足してくれた時点でOKです。今こそWEBではPV数などが出てきますけど、当時のLOOKBOOKは印刷物ですから影響力を数値化できない。クライアントの満足度というボーダーラインさえクリアすれば、自由に考えることができたんです。

リッキー:では、この数年の間に自由度が下がった感覚はないでしょうか? 今は、ハイブランドであってもポートレートのような分かりやすい写真が立ち並ぶことが増え、数値化しやすいものが求められている気がします。

Nesco:数値化に関してはまた難しいお話になりますが、確かにシンプルな見せ方が求められる傾向はあります。たとえば大規模なアパレル会社内で数ブランドを担当している方に、インディペンデントで小さなブランドの責任者と同じ熱量を求めるのは難しい。もしも担当者が上司の満足度の中で企画しなければいけない場合は、思い切った挑戦よりも制約に合わせて引き算を重ねて提案することもありますね。そうなると自然とシンプルになって行くということでしょうか。

一方で、とても自由に提案させていただけるケースもあります。イメージを膨らませるためのビジュアルが重視され、企画的にも面白さが求めらる。弊社のクライアントでは「CA4LA」がその一つです。例えば、クリスマスツリーのオーナメントというテーマを掲げて、実際にモデルさんにハーネスをつけて宙吊りにして撮影したこともあります(笑)。非常にケースバイケースなので、全体的な傾向として数値化できるものが求められているかどうかは、わからないですね。

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―LOOKBOOKの価値。
リッキー:こうして手元に残されているアーカイブを踏まえて、NescoさんはやはりLOOKBOOKを作る意義はあると思いますか? LOOKBOOKにお金をかけることに疑問を持っているブランドも多いと聞きますが…。

Nesco:確かに今の時代感では、一概にLOOKBOOKが必要だとは言い切れません。作るべきケースもあるし、無くていい時もある。

そこでLOOKBOOKの役割を因数分解してみるとわかりやすくなります。LOOKBOOKには大まかにいうと二つの役割がある。その一つはコーディネートを見せることで、もう一つはブランドの世界観を広げること。もしも “LOOK”を見せてコーディネートの方法を伝えるだけでいいならば、そこまで労力をかけて撮影に取り組む必要はないわけです。

リッキー:確かにファッションショーのレポート写真や、マネキンに服を着せてデータ的に見せるスワッチのことをLOOKBOOKとは呼びませんね。どちらかというとカタログです。

Nesco:つまりコーディネートを見せるだけなら、別にLOOKBOOKの体裁をとる必要がないんです。逆に言えば、だからこそLOOKBOOKを作るのであればブランドの世界観を創出することにこだわるべきだと思うし、それが出来たときに意味のあるものになると僕は考えています。

まあでも、難しいのはそのアプローチの仕方ですよね。トータルコーディネートを見せた方が世界観を表現できるブランドもあれば、プロダクトの素材にフォーカスした撮影を行なった方がいい場合もある。スタジオでミニマルに見せるか、ロケで要素を加味すべきか、モデルを起用すべきか、どんなモデルを何人起用するか…

さらに、それをInstagramにアップするだけでいいのか、印刷して紙の体裁や質感に頼った方がよりイメージがふくらむのかまで考える。ブランドの置かれている状況や服の特質によって、やるべきことは常に違ってくるものです。LOOKBOOKが効果的に仕上がるか無駄になるかは、製作サイドの意向次第ではないでしょうか。

LOOKSTAND_CROSS TALK vol.3-2(「Nigrec Co.,ltd」代表兼アートディレクターのNescoさんに聞いた<br>アートディレクターが思う制作の複雑化)
―LOOKBOOKは、紙or Web?
リッキー:つまりLOOKBOOKの制作のアプローチを間違えてしまうと、出来上がったときに意味がないものだと捉えられてしまうということですね。

さらに議論を進めて、紙とデジタルという視点ではどうでしょう。デジタルが主流になっているものの、セレクターのいる本屋や古書店は注目されていますよね。マスとしての本が衰退する一方で、改めて重要視されている印刷物もある。LOOKBOOKはどのように対応していくべきか…?

Nesco:おっしゃる通りで紙とWebは住み分けることが大切です。Webでは多くの人の目に触れさせることができますし、SNSからECサイトに誘導できる機能なんかも便利です。だからインスタグラムに使用することを前提にビジュアルを作るブランドさんは増えていますよね。ただし、それをそのままLOOKBOOKとして紙に刷るケースは減っています。その代わりに紙では、コラムやニュースの盛り込まれた読みものは増えていると感じますね。

リッキー:確かに大手セレクトショップでも雑誌のように楽しめるリーフレットやタブロイドを見かけることがあります。

Nesco:例としては、もともと尖ったビジュアルを製作していた「BIRKENSTOCK」。今では、誰もが理解しやすいスタイリング提案とコラムのような読み物に加えて、シューケアのハウトゥーも掲載しています。店頭で配布することでお客様が勉強できるようになっている。

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リッキー:なるほど、情報に効果的なまとまりが生まれていますね。

Nesco:こうしたコンテンツの充実に限らず、仕掛けや装丁の付加価値もますます求められていくでしょうね。素敵な佇まいの印刷物を作ることは、やっぱりブランドの世界観を強めると思う。これはデジタルでは得られませんから。

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―LOOKBOOKの役割を見誤らないこと。
リッキー:ちなみに、世界観を重視したLOOKBOOKは実際の売り上げに繋がると感じられますか?

Nesco:もしもクライアントさんに同じことを問われたら『NO』と言います。もちろん売り上げに繋がるかもしれませんが、そう単純な問題ではない。

リッキー:クライアントから実売を期待されて、制作会社が苦しんでいる例はよく聞きます。

Nesco:まさに議論すべき問題です。もちろんいつも基本的に売れてほしい気持ちで制作をしていますし、商品を良く見せる努力もしています。ただし、売り上げの担保は厳しい。基本的にモノを売りたいときは、そのほかのたくさんの仕込みが必要です。例えばイベントやキャンペーンがあり、さらにインスタをはじめとしたPRの段取り、リリースのタイミングのコントロール、LOOKBOOKを含めた販促物の制作…。すべてが結びついたときに売上に反映される。年間計画を事前に練りあげて、PRと企画を一緒に盛り上げることが大切なんです。けれど、そのプロセスができていない例は大きいブランドでも良く見受けますね。

リッキー:老舗になると「とりあえずやらないと」と惰性の風潮があったり、目的が定められていないことってありますものね。

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―LOOKBOOKの今後。
リッキー:今回Nescoさんとお話しをして、ブランドのプロモーションの手段の複雑化を改めて実感しているわけですが、今後はより、制作サイドとブランドが細やかなコミュニケーションをとる必要がありますね。

Nesco:そうですね。LOOKBOOKをつくるとしても、その後に店頭POPやSNSに流用することまで見越すと、制作段階で出来ることは増えるじゃないですか。ブランド側も製作側も、ひとつひとつ目的を明らかにしなければいけません。

リッキー:生産・PR・販売を包括的かつ長期的に考えて、どのようなコンテンツをWebと紙にのせるか見極める。選択肢が多様化してきているからこそ、正しいアプローチができた時にLOOKBOOKの真価が発揮されるようにも思います。そして、もしかしたら、この過渡期だからこそ、ルックブックを取り巻くクリエイティブがさらに多様化するのかもしれないと期待も高まっています。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

LOOKSTAND_CROSS TALK vol.3-2(「Nigrec Co.,ltd」代表兼アートディレクターのNescoさんに聞いた<br>アートディレクターが思う制作の複雑化)
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Photo: Jun Namekata Text: Takako Nagai